【経済】ホンダ「シビック復活」は成功するか？ [03/23]

かつてホンダを代表する車として一世を 風靡 ふうび した「シビック」。販売不振などを理由に２０１０年に
国内向け生産を終えていたが、ホンダは、２０１８年にシビックを日本市場に再投入することを表明した。
北米市場では今も人気の高いシビックだが、日本でも再び、往年の栄光を取り戻すことができるのか。
モータージャーナリストの御堀直嗣氏が、日本市場再投入の成否を占う。

ホンダの八郷隆弘社長は２月２４日の記者会見で、北米で販売している４ドアセダンのシビックについて、
「２０１８年までに日本国内での販売を再開する」と述べた。

会見には私も出席していたが、八郷社長のこの発言には唐突な印象が否めなかった。
再開の理由として八郷社長は、シビックセダンは北米での人気が高いこと、国内でも４ドアセダンの
ドイツ車が堅調に売れていることを挙げている。しかし私は、シビックセダンの日本市場再投入には、
厳しさを覚えずにはいられないのである。理由は三つある。

まず一つめは、「シビック」という車名が、日本ではもはやブランド力を失っていると考えるからだ。

私（６１歳）を含め年配層には、シビックという車名に愛着や懐かしさを覚える人も多いだろう。
１９７２年に初代が販売されたシビックは、低燃費や、ＦＦ（前輪駆動）を利用した室内空間の広さ、
低公害型エンジン「ＣＶＣＣ」に代表される排ガス対応などが支持され、“国民車”として、トヨタのカローラ、
日産サニーなどと並ぶ人気を誇っていた。しかし今日、人々がシビックに対して、どのような思い入れを
残しているのかと考えると、おそらく希薄な印象しかないのではないだろうか。

２０１０年以降、国内市場からシビックの名は消えた。その背景にあったのは、０５年に発売された８世代目
シビックの販売不振だ。シビックは初代車以来、コンパクトサイズのハッチバック車を中心に展開してきたが、
８代目は北米市場を意識して、３ナンバー車へと大型化された。なおかつ、ハッチバック車は車種から消え、
４ドアセダンのみとなった。この時、８世代目シビックには、車名に込められた「市民のためのクルマ」の意義が
なくなってしまったのである。

あるフランスの有名ファッションブランドの社長は、雑誌の取材に次のような意味のコメントを残している。
「ブランドとは、同じものを同じ品質で１００年続けられるかどうかだ」と。

販売開始から３８年で、国内においてその名を消したシビックには今、郷愁は感じても、ブランドとしての力は
もはや、国内には残っていないと思わざるを得ない。

一方、北米では事情が異なる。ホンダが１９５９年に米国市場へスーパーカブを売り出したとき、
「ＹＯＵ　ＭＥＥＴ　ＴＨＥ　ＮＩＣＥＳＴ　ＰＥＯＰＬＥ　ＯＮ　Ａ　ＨＯＮＤＡ（素晴らしき人、ホンダに乗る）」の
キャッチフレーズで広告キャンペーンを展開し、米国人に「ホンダ車に乗るのは良識ある市民」というイメージを
浸透させた。そして初代シビックは当時、世界で最も厳しい排ガス規制「マスキー法」を最初に達成した
４輪乗用車として、米国人を驚かせた。スーパーカブに続く良識を示したシビックは以来、米国でのホンダの
ブランドを牽引けんいんしてきたのである。

１０年以上も前の話だが、米国でのシビックのブランド力がどれほどのものであるかを実感したエピソードがある。
米国を訪れた際、現地のホンダ関係者に「米国の顧客がシビックの次に選ぶのは、アコードなのか」と尋ねた。
すると彼は「シビックのお客様は、次も新型シビックを選ぶ」と答えたのである。それほどシビックは、北米では
「誇りあるクルマ」なのである。だからこそホンダは、シビックの車体を北米向けに大型化した。
その結果、シビックは日本市場には適さなくなったともいえる。

さらに、ホンダは０５年、欧州市場に向けてフィットのプラットホームを応用し、米国仕様のセダンとは
別のハッチバック車を作って売ることを始めた。米欧で、根幹から異なる「二つのシビック」が生まれたのである。
シビックとは何か。その答えが二つあるということだ。これも、ホンダの“迷走”ぶりを表しているような気がしてならない。

http://www.yomiuri.co.jp/fukayomi/ichiran/20160317-OYT8T50057.html

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